藤枝の朝ラーメン文化の一翼を担い、油そばという特色あるメニューで人気を集める「虎徹」。週末限定で24時間ノンストップ営業という特徴を持つ同店の店主・長島さんに、東京から持ち込んだ油そばの誕生秘話や、24時間営業を通して見えてきた「人間の営み」、そして藤枝朝ラー文化への思いを伺いました。
藤枝の朝ラー文化を支える「虎徹」

──藤枝の朝ラー文化において「虎徹」はどのような位置づけですか?
長島さんうちは週末に24時間営業しているので、基本的に土日休みのサラリーマンでも朝ラーメンを食べられる環境を作りたいと思っていました。朝ラーメンという名前を最初に使ったのは私なんですよ。みなさん朝だけやるのが朝ラーメンと思っていましたが、我々は朝ラーメンという名前で売っていたんです。
時間帯に関係なく提供するラーメンを「朝ラーメン」と呼ぶことで、藤枝の文化として定着させようとする考えがあったんですね。
長島さん地方の皆さんでも『朝ラーメン』というイメージ、つまり藤枝の中華そばというイメージの中で捉えてもらえればいいなと思って、朝ラーメンという名前を使ったんです。
名前に込められた思いを聞くと、単なるメニュー名ではなく、藤枝の食文化を伝える取り組みだったことがわかります。
長島さん市外から出張の人が来たり、サッカーの試合を見に来た人たちが夜の飲み会のあとに朝ラーメンを食べて、サッカーの試合を振り返ったりしている。そういうことでも朝ラーメンを皆さんに知っていただくお役には立てているのかなと思っています。
長島さんは藤枝の朝ラー文化を「文化だから、みんなで盛り上げて、みんなで守っていこう」と仰います。地元の名物として認知されつつある朝ラーメンを通じて、藤枝の魅力を伝える一助になりたいという思いをたっぷりお話してくださいました。
メニューの種類は100種類以上!その日に食べたいラーメンは人によって違うから

──虎徹さんでは100種類以上ものメニューを提供されていると聞きました。
長島さんはい、いろんなラーメンがあるというのは、例えば5人で来店して、全員が豚骨を食べたい日ばかりではないんですよね。だから全部カバーしようと思ったんです。
長島さんはご自身も糖尿病であることを明かし、健康志向のお客様のニーズにも応えようとしています。
長島さんお客さんから『2日酔いにしじみラーメンが食べたい』とオーダーされると、人の健康が気になってしまって。『じゃあ作ってみようか』と一生懸命作ったり。そうやってメニューが増えていったのは事実です。
看板メニュー「油そば」誕生秘話
──長島さんが油そばに魅了されたきっかけは?

長島さんこの店を建て替えて10年ぐらい経ちますが、当時この辺りに油そばってなかったんですよ。テレビで東京の珍々亭さんが油そばで有名だと知って、興味本位で何回か食べに行きました。美味しいなと思ったので、この味を静岡に持ってきたらどうなるだろうかと思ったんです。
しかし、最初から順調だったわけではありません。「油そば」というネーミングに馴染みがなく、苦戦した時期もありました。
長島さん出した当初は『油そば』というネーミングに馴染みがなくて。お肉も小分けして冷凍し、オーダーが入ってからチンして提供する形でした。時には一ヶ月冷凍保存することもあって、販売する側としては心が痛み、廃棄することもあり苦労しました。それが2、3年前から急に油そばが出るようになって、今も進化し続けています。
──油そばの魅力と食べ方について教えてください。
長島さんうちの油そばの面白さは、自分で味を整えていくところにあります。普通のお酢ではなく、りんご酢を使うことが味の決め手なんです。
長島さんは常連客に人気の「味変」についても教えてくれました。
長島さん常連さんはよくやるんですが、最初は自分の好みの味付けで食べて、途中から紅生姜を入れるんです。さっぱりするんですよ。ウッカリすると焼きそばみたいな味になってしまいますが、そうやって食べて、最後にさっぱりする人が多いです。
週末24時間営業で見えてきた「人間の営み」
──週末24時間営業を通して見えてきたことはありますか?
長島さん週末のオールナイト営業は、金曜日の夜から日曜日の14時半まで、ノンストップでやっています。24時間営業をして初めてわかったのは、人間というのは24時間動いているんですよ。24時間の中で誰かが動いて、誰かが働いている。その中で、うちも含めてお役に立てているかなと思っています。
週末の24時間営業では、様々な時間帯に様々な客層が来店します。
長島さん明け方だったらタクシーの出勤や終わりの人、新聞配達が終わった人たち。それから、キャバクラの仕事が終わったお姉ちゃんたちがアフターで来て、黒服の子たちが店の掃除を終えてやって来る。8時頃になると今度は親子連れの朝ラーメンを求めるお客さんが来る。そうやって24時間の中でいろんな人の暮らしに触れることができるんです。

肉屋から転身したラーメン職人の哲学
──ラーメン店を始める前はどのようなお仕事をされていたのですか?
長島さん24時間肉屋をやっていたんですが、区画整理で立ち退かなければならなくなりました。その前に高校卒業して名古屋に肉屋の修行に行ったんです。4、5年間いて、主に配達業務をしていました。
その配達業務が、後のラーメン店経営に大きく影響することになります。
長島さん配達で様々なレストランやラーメン店、中華料理店に行くと、みんな忙しい時間帯は怒られるので、ピークが終わった時間に行くんです。そうすると、みなさんスープを作ったりチャーシューを作っている。私は昔から可愛がられて『お前こい』と言われ、スープの作り方やチャーシューの作り方を教えてもらいました。4、5店のスープの作り方を全部覚えて、自分なりに作っていったんです。
肉屋ができなくなった時、「さて何をしようか」と考えた結果、「ラーメンしかない」と思ったそうです。
──ラーメン作りに対するこだわりを感じますが、どんな点に注意していますか?
長島さん火の炊き方も、店によって微妙に違うんです。中火と言っても、4人いたら4人の中火が違う。強火は一番簡単で、ガンガン炊けばいいだけ。強火と弱火を組み合わせるのが一番難しくて、それで味がぶれてしまうんです。
材料の選択にもこだわりがあります。
長島さん豚の骨も、同じ上豚という種類でも、脂っぽいものもあれば筋肉質なものもある。骨を茹でても同じスープができない。同じゲンコツでも出汁の出方が違うんです。だから難しいんです。だから時々『今日のは美味しい』とか『今日は薄かった』とかいう違いが出るんです。
──「昨日の自分に負けたくない」という思いについて教えてください。
長島さん負けたくないんです、昨日の自分に。一番いいスープを作りたいけど、一番いいスープを作ったという自覚はないんです。美味しいとは思うけど、もっと美味しいのができるんじゃないかと思うんです。
長島さんは64歳と話しつつも、現役へのこだわりを持ち続けています。
長島さん平日の夜は私が朝から仕込んで、女房と息子が営業して、アルバイトさんの力も借りてやっています。お客さんがいない時間帯に、スープを作ったり何かを作ったりするのは、本当に真剣に作れて空気が動かないので、私にとっては一番楽しい時間であり、一番戦える時間なんです。
藤枝朝ラーの未来と継承

──藤枝の朝ラーメン文化についてどのようにお考えですか?
長島さん僕の中での文化って『みんなで盛り上げる』ということだと思っています。
長島さんは朝ラーメンについて「文化だからみんなで盛り上げ継承していく」という強い思いを持っています。
長島さん好きな人は朝ラーメンを追いかけて来ますし、新規参入も必ずあります。変に邪魔せず、影で応援するなり、例えば企画の中で援助できることがあれば、業者さんに提案したり、そういうお手伝いはできると思います。いろんな子が出てくる。文化だから、どこかで継承するもの。邪魔することはないんです。
長島さんは朝ラーメンについて「文化だからみんなで盛り上げ継承していく」という強い思いを持っています。
──次世代への技術継承についてはどのようにお考えですか?
長島さん今、油そばの作り方は息子しか知らないんです。他のスタッフは知らない。教えてもらうと作らなければいけなくなるので、面倒くさいから逃げているのかもしれませんが(笑)。でも、これは他の人には教えられないものですから。
看板メニューの油そばについては確実に技術継承を進めています。
藤枝の朝ラー文化を支え、「油そば」という新たな魅力を加えた虎徹。長島さんの「昨日の自分に負けたくない」という職人魂と、「文化として継承していきたい」という思いが、藤枝の朝ラーメンをさらに発展させていくのかもしれません。

| 店名 | 虎徹 |
|---|---|
| 住所 | 静岡県藤枝市青木3-15-1 |
| 営業時間 | (火・水・木)18:00~翌2:00 (金)18:00~(日)14:30通し営業 |
| 定休日 | 月曜日 |
| 看板メニュー | 虎徹油そば |
| 駐車場 | 有 |

