藤枝市の朝ラー文化を支える「麺屋八っすんば」。和食料理人として培った技術と感性を活かし、名古屋コーチン100%にこだわったスープで多くの人を魅了する店主・杉浦さんに、ラーメンへの情熱と藤枝朝ラー文化への思いを伺いました。
藤枝の朝を彩る極上スープ ―名古屋コーチン100%のこだわり

──看板メニュー「名古屋コーチン醤油らぁ麺」のこだわりについて教えてください
杉浦さんベースは名古屋コーチン100%です。それ以外は入っていないんで、よくいう鶏と水のみのスープですね。
スープをレンゲですくい上げると、美しい金色の油が輝きます。この油は人工的に加えたものではなく、名古屋コーチンを煮出す過程で自然に出てくる油だといいます。
杉浦さん純粋にスープを炊いている時に出る油なので、名古屋コーチンそのものです。香りがやっぱり名古屋コーチンならではの特徴があって、色も綺麗。
名古屋コーチンから抽出される天然の旨味と香りをそのまま味わってほしいという思いから、各テーブルには「最初にスープをしっかり味わってから食べてください」というメッセージも。トッピングも別皿で提供されるなど、スープの味わいを最優先する姿勢が随所に表れています。
──「シンプル」にこだわったラーメン。

名古屋コーチン100%という贅沢な素材を使用する理由についても明かしてくれました。
杉浦さん最初は他の安い鶏も混ぜて、名古屋コーチンも一緒に使っていました。正直、名古屋コーチンだけだとどうしても高くなってしまうから。野菜も入れたりしていましたが、自分の理想を突き詰めていくと『野菜はいらない、安い鶏もいらない』となって、残るのは名古屋コーチンだけだった。
そうして辿り着いたのが、現在の「名古屋コーチンと水だけ」というシンプルな素材構成です。名古屋コーチンの特徴について尋ねると、杉浦さんはこう答えてくれました。
杉浦さん香りはもちろん、すごく鶏感が出る。
スープの厚みも名古屋コーチンらしさです。
多くのお客様が完食するだけでなく、スープまで飲み干していくという事実が、そのおいしさを物語っています。
和食の技を注ぎ込んだラーメン哲学

──「八っすんば」という店名の由来を教えてください。
杉浦さん広い調理場で『はっすん』というのは、全体を盛り付けるポジションで、1番下っ端がやるんです。
1番最初にお客さんに見えるのがその盛り付け。器の使い方、見せ方が1番大事で、1番最初に教わるんです。下積み時代に。初心を忘れずにという意味で店名に「はっすんば」と店名を名付けました。あとは、ものすごく苦しかった、辛い思いをした修行時代も踏まえて(笑)
店名に込めた思いからは、和食料理人としての基本を大切にする杉浦さんの姿勢が伝わってきます。
杉浦さん料理を長くやってきた経験はラーメン作りにも生きています。ベースはそこなので、盛り付けもそうだし、器やお盆の使い方も。
ラーメン屋さんは大体が白い丼に白いレンゲ。それじゃつまらないんで。別にそういうのは悪いわけじゃないですけどね。うちはこのスタイルでやった方がうちらしいかなと思って。
写真映えする盛り付けは、来店者がSNSに投稿する機会も多く、自然と店の宣伝にもつながっています。和食の技術を基盤としながらも、自分らしさを大切にする杉浦さんの姿勢がメニューの隅々にまで表れています。
季節を感じる人気の限定メニュー
「麺屋八っすんば」の魅力の一つが、季節ごとに登場する限定メニュー。インタビュー時には、秋を感じさせる「焼き秋刀魚らぁ麺」が提供されていました。
杉浦さん限定をやる理由は、そのラーメンに季節を感じてほしいからです。やはりそこも和食から来ています。料理人としては、ただラーメンを食べるだけじゃなくて、このラーメンが出てくると『この季節だな』とか『夏だな』とか感じてほしい。
季節感の表現は具材だけでなく、盛り付けにも表れています。
杉浦さん今なら秋刀魚、人参でもみじの形を作ったりして、季節感を出します。和食をやっていないと、こういう発想は出てこないかもしれませんね。
年間を通して季節ごとに決まった限定メニューがあり、リピーターの楽しみになっているといいます。
幅広い客層に愛される店づくり

「麺屋八っすんば」の特徴の一つが、子供から大人まで幅広い客層に対応した店づくりです。店内のポップや子供向けメニューは、全て杉浦さんの奥様が作成しているといいます。
杉浦さん僕はもうラーメンだけ。あとは全部嫁さんが担当しています。ポップもそうだし、アイスコーヒーとか、どうしたらお客さんが喜ぶかなと。子供さんにも喜んでもらえるように考えてくれています。
その甲斐あって、家族連れの利用も多いといいます。
杉浦さん妊婦さんの時から来るお客さんがいて、しばらく来なくなって、数ヶ月して子供を連れてまた来られることもあります。今はその子が幼稚園や小学校に上がったりして、そういう流れを見るのも楽しいですね。土日なんかはファミレスみたいな感じの時もあって、座敷に子供連れでわちゃわちゃしています。
毎週訪れる常連家族や毎日通う熱心なファンも。シンプルで飽きない味わいと居心地よい空間が、多くのリピーターを生み出しています。
藤枝朝ラー文化を支える
── 藤枝の朝ラー文化についてどう思いますか?
藤枝市出身の杉浦さんにとって、朝からラーメンを食べる文化は特別なものではなく日常だといいます。
杉浦さん僕らからすると日常だから、別に特別なことをしているという感じはないんです。幼い頃からずっと朝ラーメンという文化が普通に日常であったので。でも、朝から好きなラーメンが食べられるというのは、やっぱり嬉しいことですよね。いろんなお店もあるし、『志太系』もあるし、うちみたいなお店もある。
駅から近い立地もあり、観光客の来店も多いといいます。特に最近はサッカーの試合を観戦するために訪れたサポーターの利用が増えているそうです。
杉浦さん最近では県外のサッカーサポーターの方々が来てくれるようになりました。そういった方々を通じて、もっと広めていけるといいですね。『静岡に来て、藤枝に来たら、朝ラーメンが食べられる』というのが目的になってもいいかもしれない。サッカーも大事だけど、そういう発信はしていった方がいいと思います。これだけ美味しいお店がいっぱいあるし、ラーメンもいろんな種類があるから。
地元の文化を誇りに思いながら、より多くの人に広めていきたいという思いが伝わってきました。
家族連れでも気軽に訪れることができ、県外から訪れるサッカーファンも楽しめる、藤枝朝ラー文化を体験できる一店として、多くの人に親しまれている「麺屋八っすんば」。名古屋コーチンの豊かな風味と、和食の技術を注ぎ込んだラーメンは、藤枝朝ラーの新たな魅力として輝いています。

| 店名 | 麺屋八っすんば |
|---|---|
| 住所 | 静岡県藤枝市南新屋275-11 |
| 営業時間 | 平日7:00〜9:30 10:30〜13:30 (土・日・祝)7:00~13:30 スープが無くなり次第終了 |
| 定休日 | 水曜日・木曜日 |
| 看板メニュー | 名古屋コーチン醤油らぁ麺 |
| 駐車場 | 有 |

